本音で語る恋愛マガジン

【小説】Vol.7 加害者意識を芽生えさせる自己犠牲女<前編>

男心を知らずして、恋愛につまづく女たち。

甘え下手な恵理子男を見くびったカナオ許しすぎる佐知子本心を見せない麻衣子ものさし一本女貴子 ときて、今週は「自己犠牲女」プレスの奈緒の登場です。自己犠牲女=自分の幸せより、ヒトの幸せを優先する、、そんなマザーテレサのような愛溢れる女性、男女ともに愛されまくりそうですが。。。

  • <今週の男心を知った女子>
  • プレス・奈緒30歳。8ブランドほどを保有する中堅アパレルに勤務。アラサー向けブランド「アルバース」のプレスになって2年。同じ会社で事業部長をつとめる雅之とは交際2年。雅之39歳、自分も今年30歳と言う年齢を考えてもそろそろ結婚を、と考えている今日この頃。

人に求められることに最高の喜びを見出す

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朝、表参道のプレス前でiPhoneで撮影した自分を、ふわっとやわらかい雰囲気になるように加工した写真とともにコメントを付けて公式instagramに投稿した。

午前と午後、毎日2回のinstagram投稿はプレスの大事な仕事だ。「アルバース」のプレスになって2年、最初は気恥ずかしくて少し戸惑った自撮りだったが、3ヶ月もしたら慣れた。いいねの数がいつもより少なかったり、フォロワーが減ったりすると、写真の撮り方を研究したり、1日のポストする時間を変えてみたり試行錯誤した。おかげで、奈緒がプレスになって2年の間に1万人弱だったフォロワーが5万人を超えた。その数は、8つある自社ブランドの中でも一番多く、奈緒のちょっとした誇りだ。

instaを投稿した後は返却の整理をするのが日課だ。アシスタントの葉月と二人、スタイリストに貸したサンプルが伝票通り戻ってきているか、汚れはないかなどチェックしたのち、媒体掲載分のチェックをする。

「また山本さん、全部未使用で返却ですよー。もう、奈緒さん、ありえなくないですかあ?」アシスタントの葉月が怒っている。「しょうがないよ。山本さんは使ってくれるつもりで借りてくれたんだろうけど、コーディネートチェックで落ちちゃったんでしょ。山本さんの責任じゃないよ」
「そうかもですけど、リースが多いこの時期、あんなにごっそりサンプル借りてって全部未使用とかー。だったら他のスタイリストさんに貸したかったですよー」
葉月は素直でいい子だと思う。アルバースを愛してくれていて、真剣に考えてくれているがゆえの発言だ。奈緒だって葉月と同じことを思わないわけではなかったが、それを堂々と口にするのは憚られた。思ったままを素直に口にできる葉月を羨ましくも思った。

「返却でーす」。整理しているそばから次々と返却のサンプルが戻ってくる。たいていはアシスタントかロケバスくんだ。「ご苦労様です」奈緒はニッコリ笑ってサンプルを受け取る。

どんな人に対しても笑顔で接する。これは幼い頃からの小さい頃からの奈緒の癖だ。処世術といってもよいかもしれない。

真ん中っこゆえのさみしさ

奈緒は三人姉妹の真ん中っことして育った。気の強い姉はいつも母と衝突していた。奔放な妹は勝手なふるまいをしては母を困らせていた。姉や妹のように母を困らせないように、とするのが癖になり、いつしか奈緒は自分の意見もわがままもあまり言わず、いい子でいるように心がけた。それが、あまり陽の当たらない真ん中っ子が両親から愛情を受ける術だと思っていた。

しかし、「手のかかる子ほど可愛い」と言われるように、両親を困らせることのない奈緒は、どうしたって姉や妹より「後回し」にされてしまう。両親にしてみれば3人とも平等に扱っていたつもりであろうし、奈緒にしてみても両親に愛されていない、と感じたことはなかった。

けれど、いつしか奈緒の心の中には「さみしい」「愛されたい」という2つの感情がうっすらと、けれど確実に存在し、消えることはなかった。

幼稚園で、小学校で、中学で、奈緒は常に周囲の状況を見て行動し、笑顔を心がけた。そうするとクラスで人気者になれた。とりわけ男の子たちは熱烈な愛情を注いでくれた。

中2の時に同じ陸上部の先輩に告白され付き合ってから30歳になるこの年まで、常に「男性から熱烈に好意を寄せられ、それに応える形で交際がスタートする」という恋愛しかしてこなかった。今の彼、雅之もそうだった。

常に「求められて」始まる奈緒の恋愛

雅之との出会いは2年前。大学を卒業して繊維系の商社に勤めたが、もっとユーザーに近い立場でファッションに関わりたいと思い、今の会社に転職した。当時37歳だった雅之は、アルバースのブランドマネージャーを務めていて、奈緒はそこのプレスとして配属された。雅之はファッション業界の男らしく洗練されていて、とてもアラフォーには見えない佇まいだった。おしゃれで会話も上手、仕事もできる雅之に奈緒は初対面で惹かれたが、いかにもモテそうな雅之に少し距離を置いていた。

モテる男が好き、という女も多いが、みんなが欲しがるものは、どうぞどうぞ、と譲りたくなる。奈緒は昔から自分だけを必要としてくれる男性を好んだ。

そんな2人の距離が近づいたのは最初の展示会のとき。
プレスと言っても経験のない奈緒は戸惑うことばかりだった。そのうえ、同じプレスの遥香は、店舗スタッフ上がりで、プレスを目指して長年下積みをしてきたようやく念願のプレスになれた女。彼女にしてみれば、下積みもせずいきなりプレスという華々しい職に就いた奈緒が気に入らないようで、何かと意地悪をされた。厄介な”年下の先輩”であったが、他人と衝突することを何より嫌う奈緒は耐えた。何より、できない自分がいけないのだ、奈緒はそう考えていた。そんな時、手を差し伸べてくれたのが雅之だった。

上司である雅之に、とくに愚痴をこぼすわけではない奈緒だったが、遥香に意地悪をされている様子を察し、「ちょっと打ち合わせしようか」と声をかけられた。事態を理解した雅之は、遥香の機嫌も損ねないように、陰で何かとバックアップしてくれるようになった。無事展示会を終え、お礼をいうと「それが俺の仕事だから、お礼なんかいいよ。でも、どうしても奈緒ちゃんがお礼したいっていうなら、飯付き合ってよ」と誘われた。

雅之に対し、警戒心が消えていた奈緒は快く誘いを受け、食事をした。しかし、約束をした日、急なアポイントが入ってしまい、約束の時間に遅れてしまった。

結局1時間遅れで、雅之が行きつけだという中目黒のイタリアンに着いたが、雅之は嫌な顔一つせず、オーナーと話ながら飲んでいた。2人の時間はひたすら楽しかった。上司と部下という関係ではあったが、話し上手な雅之に引っ張られ、すっかりリラックスしていた。あまりお酒を飲まない奈緒だったが、気分が上がって、最後のレモンチェロまで飲んでしまった。帰り際「俺んちで飲み直さない?」と言われた。行ってみたい気持ちもないわけではなかったが、恋愛に対して慎重な奈緒は断り、家に帰った。

手も繋がない中学生のようなデートを3回ほどしたある日「ゴールデンウイーク、宮古島行かない?」と誘われた。「私、付き合ってもいない男性と旅行とか行かないです」と言うと「俺は付き合う気満々だよ。会社の子にこんなこと言ってるんだから、遊びなわけないじゃん。ちゃんと本気だよ? じゃあ、つき合おうよ」と言われた。「じゃあ、ってなんですか〜」と笑ったが、雅之に押し切られ、宮古島に行き、正式な付き合いが始まった。

セックスとは快楽の追求ではなく愛情の確認行為

雅之は社内でも人気のある男で、しかも奈緒の上司。そんな雅之と付き合っていると知られたら嫉妬もされるだろうし、色眼鏡で見られる。「俺は全然いいけど?」と雅之は言ったが、奈緒は「知られると色々と面倒だから内緒にしませんか?」と社内では二人のことは秘密にしていた。人に羨ましがられたがる女もいるが、嫉妬は攻撃の対象になる。攻撃はするのもされるのも嫌だった。だから、小さい頃から、人、、とりわけ同性に褒められるのが苦手で、いつも、つい「私なんか」と自虐的なことを言ったり、おどける癖がついていた。

付き合って半年で雅之は事業部長に昇格し、仕事での接点は減ったが、プライベートでの関係は変わらず良好だった。

週末はほぼ雅之の住む中目黒の部屋で過ごし、平日も会社帰りに雅之の部屋で過ごす日の方が多かった。「友達と飲みに行く」というと、「じゃあ、店から友達と写メ送って」と言われた。大学時代からの親友・真琴には「会社も一緒で、会ってない時もそれじゃ、束縛されてうざくない? 私には無理だわー」と言われたりもしたが、奈緒は「求められてる感」が逆に心地よかった。

連絡が来るのも、どこに行くかを決めるのも、何をするかを決めるのも、何を食べるかを決めるのも雅之だった。女性の中にも主導権を握りたがる人がいるが、奈緒は、受け身でいる方が断然楽だった。自分が決めて、相手が喜んでるかどうか心配する方がずっと苦痛だった。その代わり、雅之が決めたことを120%の笑顔で肯定し、喜び、彼を満足させた。

その関係はセックスにおいても同じだった。雅之のセックスは、モテてきた男性にありがちな「本人自信満々だけど、いえ、別に、、、」なものだった。とはいえ、慣れてきてお互いを知るようになれば、良くなるかもしれないと淡い期待を抱いたが、回を重ねても変わることはなかった。けれど、奈緒は「もっとこうしてほしい」などとは口が裂けてもいえず、雅之との行為でイクことは決してなかった。

親友の真琴に話すと「奈緒はさ、付き合うって決めた後にやるから、そうなっちゃうんだよ。私なんか絶対やってから、付き合うかどうか決めるもんね。じゃないと、付き合うって決めたけど、やってみたら最悪ーー、ってなったとき、さすがに、セックス良くないんでやっぱ付き合えません! とか言えないじゃん。だから、私は断然お試ししてから、付き合う派! 奈緒もそうすればいいじゃん」などと言われたが、付き合うという約束をしていない男性とセックスすることの方が奈緒には耐えられなかった。

もちろん、達することができないセックスに100%満足しているかと聞かれればそれは嘘になるが、彼に求められ、愛されている気持ちに満たされ、彼が満足している姿を眺める、それで十分幸せだった。奈緒にとってセックスは快楽の追求ではなく、愛情の確認行為だった。

意外と低いプレスの地位

会社によって異なるが、たいていのブランドは10人のスタッフで構成されている。ブランドを統括するマネージャーを筆頭に、ディレクター、MD、デザイナー、バイヤー、営業統括、生産管理、店舗管理、ウエブディレクター、そしてプレスだ。自身がブランドの顔としてSNSを発信したり、メディアに掲載されたり、モデルや編集者などと交流があったりとプレスは華やかな職業ではあるが、社内での地位は一番低かった。
けれど、小さい頃から雑誌とファッションが大好きで、就職活動の時も出版社を受けてはみたものの全滅で、そんな自分が今編集者と交流し、雑誌に関われることは何よりの喜びだったし、デザイナーやバイヤーのように服を作ったり、目利きするスキルはなくても、彼らの思いやこだわりを伝えていく、という仕事に幸せを感じていた奈緒はプレスという仕事に誇りを持っていた。

「じゃあ、始めよっか」雅之の号令で月に一度のプレス全体会議が始まった。雅之が事業部長を務める4つのブランドのブランドマネージャーとプレスおよびプレスアシスタントが一堂に会す。

社内の人気者

当面のPR戦略や媒体掲載報告、SNS動向などを各ブランドが発表していく。それぞれのブランドの発表に対し、雅之が的確な意見を述べたり、鋭い質問を投げかける。

会議を終え、女性のプレススタッフだけでランチをしようということになり、「たまな食堂」に向かった。246の路地を入った隠れ家的な店で出てくる料理はオーガニック&グルテンフリーといかにも女子が好きそうなレストランだ。

「今日も斎藤さんかっこよかったー」プレスの陽菜が雅之の話を口にした。「陽菜さんも斎藤部長ファンなんですかあ? 私もですー。かっこいいですよねー」と陽菜のアシスタントが同調した。すると、奈緒のアシスタントの葉月も「私も斎藤部長オシー! 私、結構まじですよー」と周りをけん制した。先輩をさしおいてこういう発言がさらっとできてしまう、葉月はそんな女だった。さらに葉月は「斎藤部長、彼女いないのかなあ。けっこういい年ですよねー。私本気で頑張っちゃおうかなあ」と言い出した。笑って聞いていた奈緒だったが、心中はとても穏やかではいられなかった。葉月のことだ、本気で行動に移す危険がある。かといって、自分が付き合っていると宣言することは憚られる。しばらく考えて、

「斎藤部長、なんか結構長く付き合ってる彼女がいるって聞いたことあるけど?」とジャブを打ってみた。しかし、葉月には効かなかったらしく「そうなんだー、でも、あれだけかっこいいんだもん、ま、当然ですよねー。彼女持ちじゃないイケメンとかむしろ怖いわ。私、頑張っちゃお〜」と口にした。

葉月に本当のこと、話そうか、いや、そんなことしたら、葉月に恥をかかせてしまう。かといって、葉月が本当に雅之に対して行動を始めるのも困る。いや、雅之を信じればいいのか、そうだ、雅之を信じよう。けれど、成就しないことがわかっていて葉月に何も助言しないのもなんだか悪いことをしている気がする。それにもし、葉月が雅之に本気になってしまったら、何かと面倒になることは目に見えている。それは避けたかった。

どうすれば葉月を傷つけず、雅之への関心をそらすことができるのか考えあぐねる奈緒だった。

written by Yoshie Watanabe

 

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