「今の彼じゃないのかなあ」本音で語る恋愛マガジン

【小説】Vol.7 加害者意識を芽生えさせる自己犠牲女<中編>

  • <前回のお話>
  • プレス・奈緒30歳。アラサー向けブランド「アルバース」のプレスになって2年。同じ会社で事業部長をつとめる雅之39歳とは交際2年。仕事もでき、男性としても魅力的な雅之は社内の人気者。「負の感情」を何より嫌う奈緒は、それゆえ、嫉妬されたり色眼鏡で見られるぬよう、交際は公にしていない。そんな中、奈緒のアシスタントの葉月が「私、斎藤部長に頑張っちゃおう」と言いだし、困惑する。

自分を慕うかわいい後輩も失いたくない

朝、いつものように返却準備をしていると、雅之がプレスにやってきて

「葉月ちゃん、ちょっといいかな?」と、アシスタントの葉月に声をかけ、2人で会議室に入っていった。

何を話しているのだろう。
気になっていると、1時間ほどして葉月が興奮した様子でプレスに戻ってきた。

「奈緒さん、聞いてください。私、来月からマーベラスのプレスになることになりました! 陽菜さん、旦那様の仕事の関係で急遽海外に行くことになったんですってー」

「それはおめでとう。お祝いしなくちゃね」

「ありがとうございます! 奈緒さん、1年ほんっとーにお世話になりました。アシスタントの中から、私が次のプレスに抜擢してもらえたの、絶対奈緒さんのおかげです。奈緒さんと一緒に仕事できなくなるの、さみしいけど、プレスルーム隣ですもんね。毎日顔は合わせられますもんね! 奈緒さんのようなプレスになれるよう頑張るので、これからもいろいろ教えてくださいね!」

自分をこんなにも慕ってくれて、素直な葉月は本当にかわいい後輩だ。確かに仕事を教えたのは私だったが、この一年、奈緒さん、奈緒さん、とまっすぐに慕ってくれ、仕事で理不尽なことが起きると自分のことのように怒ってくれる葉月のおかげで救われたことも多かった。葉月とはこれからも仲良くやっていきたい、と思う奈緒だった。

だからこそ、雅之とのことでゴタゴタしたくない。

「葉月ちゃん、今日のランチはふたりでいかない? お祝いしたいから。AWキッチン予約する」

「うれしいー。ありがとうございます!」

ランチは葉月と二人の時もあるし、他のプレスを誘ってのこともある。葉月の雅之への気持ちを確かめてみようと思い、ふたりだけのランチに誘った。

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葉月の気持ちを確かめ、あきらめさせようと誘導するも

「このソースほんとおいしいですよねー。このほんのりした甘さがなんとも言えない」

「そうだね。ところで、葉月ちゃん、最近恋愛はどうなの?」

仕事の話を少しした後、AWキッチンの名物、バーニャカウダを食べながら、奈緒は本題を切り出してみた。

「恋愛ですかー? もう全然ですよー」

「前、話してたウエブディレクターくんは?」

「ああ、いましたねー、そんなの笑 うける。もうとっくに会ってないです。お子ちゃまなんだもん。やっぱ、私、同年代とか合わないのかも。一緒にいると、しっかりしろよ〜ってイラッとしちゃう。大人の方がいいです、私。さっきね、斎藤部長と話しながら、やっぱいいなあ、って改めて思っちゃいました。大人の男って感じで頼り甲斐あって、でも色気もあって。全然おっさんくさくないもん」

願っていない方向に奈緒の気持ちが進んでいる。食い止めねば、と思い、再度

「そっかあ。でも、斎藤部長、彼女いるって聞いたよ? 」と言ってみた。

「あー、こないだも奈緒さんそう言ってましたね。誰に聞いたんですかあ?」

「え、本人。前にちょっと飲んだ時そう言ってたの」

「ふーん、そうなんですね。でも、あんなにかっこいいんだもん。彼女いない方が変ですよー。私、大丈夫です。頑張るから! 今度飲み行くときは私も誘ってください!」

「え、あ、うん。。でも、やめたほうがよくない? 葉月ちゃんの自由だけど、彼女いる人に頑張るの、苦しそう。葉月ちゃんならもっといい男たっくさんいるよ」

「いないんですってー。大人の男がいいと思ってても、おっさんは無理なんですよー。でも、斉藤部長はおっさん臭さゼロじゃないですかあ。なかなかいないんですって、大人の男なのにおっさんじゃない人。そう思いません?」

「うん、、そうかなあ。いると思うよ」

「えー、そうですかあ? じゃあ、紹介してくださいよー」

そう言われて困った。奈緒も葉月と同じ「年上好きだけど、おっさんは無理」派だが、雅之以外、自信を持って勧められる知り合いはいない。黙っていると

「てか、部長の彼女って、どういう女なんだろう〜。やっぱいい女なんすかね〜。奈緒さん写真とか見せてもらいました?」とさらに困った方向に話が進んだ。ちょっと胸が痛む。

「写真、見てないね。部長そういうのスマホとかに入れてたりしなそうじゃない?」

「そうですかあ? 私今度見せてもらってみようかなあ」

葉月にそう言われ、さらに胸が傷んだ。これ以上、この話をしても胸が痛むし、いい方向に進むと思えないので、切り上げた。

雅之にやんわり警告するも

その日の夜、奈緒は中目黒の行きつけの「鳥小屋」で待ち合わせをして食事をした。それまで、もつ鍋は冬になるとたまに食べるものでしかなかったが、福岡出身の雅之は季節問わずもつ鍋を食べたがるので、月に1、2度は一緒に食べている。今ではすっかり奈緒ももつ鍋が好物の一つになった。雅之の出身地の料理を一緒に食べ、それが自分の好物になる。奈緒にとって恋愛がもたらす幸福感とはそういうところにあった。

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「葉月ちゃん、マーベラスのプレスになることになったんだって? すごく喜んでた」

「おお、そうなんだよ。葉月ちゃん頑張ってるからな。まあ、奈緒の教育がよかったのかもしれないけどさ」

雅之に褒められ嬉しくなった。

「そんなことないよ。でもすごく素直だし、頑張り屋さんだから、きっといいプレスになると思う。今日はそれ以外の話はしてないの?」

「そうだな、俺もそう思う。それ以外の話って?」

「うーん、したの、仕事の話だけ?」

「そうだよ。他になんか話すことないだろ」

「そうだけど、、、」

「なんだよ〜、気持ち悪いなあ。なんかあるならはっきり言えよ」

切り出したものの、言いづらくて困っていたが、のんきに笑っている雅之を見て、安心し、口にした。

「うーん、なんかね、葉月ちゃん、雅之さんのこと好きみたいなの」

「なんだよ、それ」雅之はさらに笑い飛ばしたので、言葉を重ねた。

「斉藤部長いいですよねー、頑張ろうっと、って言ってた」

「そんなの、言ってるだけだろ。いくつ歳離れてると思ってんだよ? 葉月ちゃんにしたら、おっさんだよ、俺なんか」

「そうだけど、、」

「なんだよ、奈緒もしかして妬いてくれてんの?」

そう言われて困った。心配しているのは事実だけれど、嫉妬してるとかそういうのではないし、もしそうだとしても、そういう感情を知られるのもいやだったし、表現するのはもっと苦手だった。

嫉妬、不安、憎悪、怒り、焦燥感、恨み、、、あらゆるネガティブな感情を持つことをもちろん喜ばしく思う人間はいないと思うけれど、奈緒は人一倍そういった感情が苦手で、なるべく避けたいという気持ちが強かった。だから、なるべく人と争わないように、人に嫌われないように生きてきたのだ。

「え、そういうんじゃなくて、なんか面倒臭いことになったらいやだなあ、って」

「なんだよ、めんどくさいことって。ならねえよ、そんなこと」

「そう。ならいいんだけど」

食事をした後、いつものように雅之の部屋に泊まった。付き合った頃は泊まると必ずセックスしていたが、最近はしないことも多い。達することのない雅之とのセックスをそこまで熱望しているわけではないし、関係が安定したからこうなったのだという見方もできる。けれど、少しだけさみしく感じているのも事実だ。このあいだ親友の真琴に話すと「そんなの、自分から誘えばいいじゃん」と、ことも無げに言われたが、そんなこと、したこともないし、できるとも思えない。真琴にそういうと「奈緒はプライド高いからなあ〜」と言われドキリとした。たとえ嫉妬していてもその感情を表に出せない、自分からセックスに誘えない、それは真琴の言う通り、プライドなのかもしれないと、少し自己嫌悪に陥った。

そして、今夜も「おやすみ」と奈緒の頬にキスをして、雅之は眠りについた。今まではさほど気にしていなかったことが、真琴に言われた言葉が引っかかって、今夜はなかなか眠りにつけなかった。同じベッドの中で眠る無防備な雅之の寝顔を見ながら、ざらりとした気持ちになった。

仕事の相談で距離を縮める葉月と雅之

加害者意識を芽生えさせる自己犠牲女<中編>

翌月、葉月はマーベラスのプレスになった。隣のプレスになっても相変わらず、奈緒さん、奈緒さん、と慕ってくれる。ランチを一緒にすることも多かった。

マーベラスのインスタのフォロワー数を上げるよう言われているようで、どうしたらフォロワーが増えるのか、何かと相談をうけた。ブランドのインスタのフォロワー増加はブランドの売り上げ増加に直結する今、インスタ運営はプレスの大事な任務だ。奈緒は自分がやってうまくいった方法をいろいろ教え、葉月もそのとおりにしたが、フォロワーはなかなか伸びず、悩んでいた。

「奈緒さん、聞いてくださいよー。こないだMDに、お前の見た目がギャルいからいけないんじゃねえか、なんとかしてこいよって、みんなの前でキレられて、ひどくないですかあ〜。私ギャルじゃなくてサーフ系だし。そういう違いもわかんないとかー。だからおじさんってきらーい」。

葉月は怒っていたが、いかんせん、MDの言ってることも当たってなくない、と思う。インスタはビジュアルの世界観が命。葉月が担当しているマーベラスの服はコンサバきれいめだから、ギャルだろうとサーフ系だろうと、いずれにせよ今の葉月には確かに似合わない。

「そっかあ。葉月ちゃんの気持ちもわかるけど、MDの大橋さんの言ってることもわからなくないかも。葉月ちゃんはおしゃれだけど、マーベラスっぽいか、って言われたらちょっと違うかもね。ヘアスタイルとかメイクとか、ちょっときれいめにしてみたら? 葉月ちゃんかわいいからきれいめも似合うと思うよ?」

「えー、そうですかあ〜。奈緒さんがそういうなら考えてみようかなあ〜」

雅之とは土日は基本一緒にいるのが当たり前になっていた。平日は「今日は遅いの? 飯一緒に食える?」とか「今日、会食だから飯は食えないけど、泊まり来いよ」とか雅之から誘われ、会うのが基本だ。奈緒から連絡することはない。だから、平日雅之から連絡がこない=今日は会わない、という暗黙のルールが出来上がっていた。

セックスする頻度も減ったが、平日に会う頻度も以前に比べて減った。自分の時間や女友達と過ごす時間が増えて嬉しい反面、さみしくもあった。けれど、基本受け身恋愛してしてこなかった奈緒は、どうすることもできずにいた。

とある日の帰り道、その日も雅之からの連絡がなかったので、仕事帰りネイルサロンへ行こうと246を歩いていると、楽しげに会話をしながら、並んで歩く雅之と葉月を見かけた。え、どういうこと? 雅之に電話しようか、いや、そんな探るようなこと、できない。後をつけてみようか、いや、そんなみっともないことできない。どうしよう、と迷っているうち、2人の姿は見えなくなった。

その日の夜、雅之にLINEをしてみようかと思ったが、なんて書いて良いか分からず、結局もやもやした気持ちを抱えたまま、眠りについた。

written by Yoshie Watanabe

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